多くの方がご存じないことですが、医療機関が提供している人間ドックに統一した基準は存在しません。
通常は人間ドックと表記してあればメタボリックシンドロームにまつわる疾患(特定健診、メタボ健診)とがん(がん検診)の両者について診断するのが一般的です。血液検査の内容が違ったり、胃がんの検査がバリウムか胃カメラだったり乳がん検診がマンモグラフィーか超音波だったりするバリエーションは若干あります。
社会保険の方は会社(健保組合)で、国民保険の方は自治体で受けることになります。自営の方で検診の対象外と思われている方が多くいらっしゃいますが実際には受けることができます。
特定健診とがん検診は時期を違えて受ける場合と同時に行う場合があります。人間ドックではこれらを同時に行います。
あまり知られていませんが、世界の先進国の中で、20歳から頸がん検診を、40歳から特定健診とがん検診をすべての国民が基本的にほぼ無料で受けられるのは日本だけです。毎年平均寿命が発表され日本が世界のトップになりますが、その一因が健診制度の充実であることは想像に難くありません。
それぞれの健診内容はどのようなものでしょうか。
1、特定健診
特定健診は別名メタボ健診とも呼ばれます。身長体重などの基礎的な検査に血液検査、心電図、胸部レントゲンが内容です。
主に血圧、脂質異常症(総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪)、糖代謝(空腹時血糖、HbA1c)でメタボリックシンドロームの有無を判定します。メタボリックシンドロームは放置すれば動脈硬化を促し虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)また脳血管疾患(脳梗塞、脳出血)引き起こします。この疾患は日本人の死因の約3割を占めますので重要な検査です。
心電図では不整脈、頻脈、狭心症の兆候などが分かります。
胸部レントゲンでは心肥大、背骨の湾曲、肺の炎症、肺の腫瘍などが診断できます。
2、がん検診
がんは死因の3割を占め日本人の第一番の死因です。
がん検診は自治体で20歳から女性の子宮頸がんが始まります。がん検診は通常は40歳からですが、一部の社会保険の健保組合で30歳代から施行している場合もあります。
がん検診の内容は胸部レントゲンによる肺がん健診、バリウムか胃カメラによる胃がん検診、検便による大腸がん検診ですが、女性はこれに子宮頸がん検診、マンモグラフィーによる乳がん検診が加わります。
がん検診は2年に一度受けることが一般的です。通常は時期が来ると連絡があります。サイトや区報、市報で告知するだけの場合もあります。費用は無料が多いですが、数百円から千円ほど徴収されることもあります。
がん検診の問題は、がん好発年齢の方が必要な時期に検診をお受けになっていないことです。
基本的にがんは高齢者の疾患です。50代、60代から増加してゆきます。しかし、高齢の方でもがん検診受診率は4、5割ほどです。
子宮頸がんの発症は30台がピークですが、若い女性の子宮頸がん検診受診率は4割程です。
乳がんは11人に一人の女性に発症する頻度の高いがんです。40歳代に発症のピークが来ますが、好発年齢での受診率は4割台にとどまります。
メタボに気づかなかったり放置することで発症する心臓や脳血管の梗塞は発症寸前まで自覚症状はありません。
がんはほとんどの場合進行がん、末期がんになるまで自覚症状はありません。
健診は自覚症状がないうちに血管損傷のげんいんであるメタボリックシンドロームを見つけたり、がんを早期に診断するためのものです。
基本的に必要な時期には全年齢で特定健診もがん検診も受ける体制が日本にはあるのです。
人間ドックは特定健診(メタボ健診)とがん検診を同時に行うものです。普通の検診では多くの場合別日に受けることになるので2日に渡って受けることになります。
忙しくて時間が取れない方や検診を受けるタイミングを逸した方がまず人間ドックの対象になります。
また、人間ドックは通常の検診項目以外の検査が含まれていることがあり、これも人間ドックを選択する理由となります。
健保組合や自治体のがん検診では胃がんの検査はほぼバリウムの検査ですが、人間ドックでは胃カメラを採用する場合が増えています。早期胃がんの診断はバリウム検査では困難ですが胃カメラではかなりの確率で診断できるようになっています。
それ以外に、血管年齢、骨年齢、乳がん超音波検査、腫瘍マーカー、各種ホルモン、脳ドック、PET-CTなどがオプション設定されていたりします。
20歳になったら女性は頸がん検診を2年に一度受けること。40歳になったら男女ともに1年に一度特定健診を受け2年に一度がん検診を受けることが重要です。無料でも十分健診の意味はあります。
忙しくて一日で検診をすべて済ませたい、心臓や脳の血管の病気やがんが血縁者に多く発症している、詳しく検査を受けたい。このような方に人間ドックは合っていると言えるでしょう。
性別、年齢、家系、職種、肥満、喫煙、飲酒、運動不足などの要因を考慮してご自身に合った健診や人間ドックを選択したいものですね。