新しいがん統計から見るがん検診の重要性
医師 若杉慎司
がんの動向についてみてみましょう。
1、がんの発症部位
●2014年の罹患数(全国合計値)が多い部位
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | ||
男性 | 胃 | 肺 | 大腸 | 前立腺 | 肝臓 | |
女性 | 乳房 | 大腸 | 胃 | 肺 | 子宮 | |
男女計 | 大腸 | 胃 | 肺 | 乳房 | 前立腺 |
男女では大分差がありますね。
共通するのは胃がんと大腸がんの発症が多いことです。
胃がんは40歳からと中学生のピロリ検査と除菌が進められており、これから減少してゆくがんです。自治体や会社健診で胃カメラを選択できる機会が増えており早期での診断も期待できる環境になってきています。
大腸がんはがん検診での便潜血検査が重要です。陽性の場合は必ず大腸カメラを受けましょう。多くの場合ポリープが見つかります。ある程度のサイズになったポリープの段階で切除することで9割の大腸がんへの移行が予防されます。一度大腸にポリープが見つかった場合は1年から3年の周期で大腸カメラを受けることになります。大腸ポリープは切除した後にまた別な場所に再発することが多いからです。大腸ポリープを経ないで大腸がんが発症する確率は数%と言われていますから、大腸ポリープを便潜血検査で探すことは大変意味のあることです。
肺がんは喫煙が最大の原因ですが、喫煙率の減少や加熱式たばこの普及により今後は減少すると思われます。胸部レントゲンでの見落としが問題になっていますが、胸部CTでのスクリーニングも増えてきていますので早期診断のチャンスは増えるでしょう。ブリンクマン係数(一日の喫煙本数×喫煙年数)が600を超えている方は特に胸部CTの年に一度の検査は有用です。
前立腺がんは加齢によって急激に増えてきます。80歳以上では解剖所見で9割を超えて前立腺がんが見つかります。転移する前に診断すれば治療は容易です。
PSAという腫瘍マーカーで診断され易いのですが通常のがん検診で含まれた居ないことが多いので、50歳を超えたら自費でお受けになってください。2000円ほどで受けることができます。
肝がんはほとんどがB型、C型肝炎ウィルスの感染症が原因です。この二つのウィルスの有無は通常の健診に含まれており、肝機能異常があれば慢性肝炎ということで保険診療で定期検査や治療が開始されます。多くは肝機能異常のないキャリアーです。現在では効果が少なく副作用の多いインターフェロンの治療は行われず、ウィルスの消失ができるようになりました。慢性肝炎を放置すると肝硬変や肝がんに移行します。しかし10年から30年のスパンでの進行ですから、健診で見つかっても正しい治療をすれば問題のない疾患です。
女性の乳がんは11人に一人の発症ですから大変多いと言えます。増加の原因としては妊娠回数が減ったこと、栄養状態が良くなって初潮が早まり閉経が遅くなったことです。30代から発症が始まり40代50代で発症のピークを迎えます。検診のポイントとしては30代では乳腺超音波検査が、40代以降はマンモグラフィーが診断に有用であることです。乳腺の発達した30代ではレントゲンが通りにくく診断しにくいからです。マンモグラフィーは痛いからと敬遠する方が多いのですが40歳になったら2年に一度の検査は重要です。乳がんの5年生存率は90%を超え、命に係わりにくいがんです。しかし、進行すれば抗がん剤、放射線療法、ホルモン療法、抗体療法と沢山の治療を受けることになりその負担は大きいものになります。早期に診断し小さい切除範囲で済ませ、その他の治療を最小限に収めたいものです。
子宮がんは子宮頸がんと子宮体がんの二つがあります。
子宮頸がんは発症のピークが30歳代で原因はパピローマウィルスです。対策としてはワクチンの接種と20歳からの2年に一度の検診です。今日本の医療での問題の一つは発展途上国を含めても日本のワクチン接種率と検診受診率が極端に低いことです。日本女性の子宮は世界で最も危険に曝されているといわれるゆえんです。昨年ノーベル賞を受けた京都大学の本庶佑特別教授はノーベル賞授賞式の後の記者会見で日本でのワクチン接種の少なさに警鐘を鳴らされました。
ワクチンの有効性は高く、検診での診断は容易です。今後両者の普及が進むことを願いたいと思います。
子宮体がんは肥満、閉経が遅い、出産経験がないなどが原因になります。残念ながら健診の効果が不明で導入していない自治体や健保もあります。自費で受けると5000円ほどになります。生理以外の不正性器出血が目安になりますので、そういう症状が見られたら受診しましょう。
2、各がんの5年生存率
5年生存率はがんを発症して5年経った時点での生存している確率です。
高いほど治りやすいがんと言え、低ければ悪性度の高いがんと言えます。
下の表で相対生存率が目安になります。
2008-2009年5年生存率の主な結果
共通して言えることは、がんの進行度が低いほど生存率は高まるということです。
消化器がんでは胃がん、大腸がんは7割と比較的高い生存率で治りやすいと言えます。早期では9割を超えますがⅣ期では1から2割と下がってしまいます。
40歳を超えてがん検診を受けていてⅢ期以上になることはまずありませんから、やはり検診は重要です。
食道がんは4割ほどで治りにくいと言えます。原因は喫煙と飲酒です。喫煙率の減少でこれもこれからは減っていくがんです。これまでの胃のバリウム検査では食道の早期がんを見つけることはできません。胃カメラであれば早期に診断できますので、胃カメラの普及で早期診断のチャンスは増えることでしょう。
膵がんは1割で最も治りにくいがんです。現在の検診を含めた検査でも早期診断は極めて困難です。新しい診断方法の確立が望まれます。
肺がんは男女併せて7万人の死亡数でがん死の第一位です。早期で診断されることは少なく治癒の困難ながんです。リスクの高い方での胸部CTが普及すれば改善してゆくでしょう。
肝がんはがんになる前に肝硬変になっていることが多く、肝機能障害、食道静脈瘤、出血傾向、腹水などが合併します。治療は塞栓療法、ラジオ波、手術、凍結療法などさまざまありますが、5年生存率は4割で低い部類になります。
乳がんは検診で見つかりやすく、自己検診もあるまれながんです。9割を超えますから最も治りやすいと言えます。検診を受けて最小限の治療のとどめることが肝要です。
子宮がんは頸がん、体がんで7割から8割です。比較的治りやすいですね。問題は頸がんが30代、体がんが40~50代が好発年齢で若いうちに発症することです。けしてがんは年寄りの病気ではないことを忘れないようにしなくてはならないでしょう。
前立腺がんでは9割を超え乳がん以上に治りやすいと言えます。骨転移を発症する前に診断することが重要です。PSAの検査だけで検診は済みますので50歳を超えたら年に一度受けましょう。
●2017年の死亡数が多い部位は順に
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | ||
男性 | 肺 | 胃 | 大腸 | 肝臓 | 膵臓 | |
女性 | 大腸 | 肺 | 膵臓 | 胃 | 乳房 | |
男女計 | 肺 | 大腸 | 胃 | 膵臓 | 肝臓 |
4、最後に
日本人の命を奪っているがんの多くは予防可能で検診での早期診断ができるものです。
がんでの死亡の過半数はそれを怠ったことによると言えるのです。
子宮頸がんの受診率は低く、がん発症の増える60歳を超えてのがん検診受診率は4割に満たないのが現状です。
わずか20年前まで胃がん、大腸がん、肝がん、子宮がんは予防を十分にできる体制がありませんでした。
現在ではすべてのがんにおいて治療、延命が大幅に期待できるようになってきました。
年間に1700万円掛かるオブジーボに代表されるようにがん治療は高額です。
入退院をが数年に及ぶことも稀ではありません。
がんを発症すると4割が離職しています。
予防をして検診で早期診断すれば状況は全く違ったものになります。
これから各がんについて細かくご説明してゆきます。