人間ドックで大腸がんを防ごう!
医師 若杉慎司
【早期発見なら5年生存率は94%】
大河ドラマなどでも活躍を続ける俳優の村上弘明(62)さんが、フジテレビ系『梅沢冨美男のズバッと聞きます!』に出演し、昨年2月に大腸がんの手術を受けたことを告白し、話題になりました。
村上さんは、年に一度の人間ドックをめんどうに思い、受診していなかったといいます。でも、妻でモデルの村上都(50)さんにいわれ、しぶしぶ受けたところ、初期の大腸がんが発見されたとのことでした。
大腸がんは現在、罹患数、死亡数ともに多いがんです。
罹患数でいうと、男性の場合、胃がん続いて第2位。女性では、乳がんに続いて第2位にのぼります。
男女合わせる罹患数は最も多くなります。
死亡数では、男性の場合、1位が肺がん、2位が胃がん、そして大腸がんは第3位です。女性の場合は、第1位が大腸がんなのです。
目次
1.がん罹患数予測
●がん罹患数予測(2018年)
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- 2018年のがん罹患数予測は約101万3千600例(男性57万4千800例、女性43万8千700例)。
- 2017年のがん統計予測(約101万4千例)と比較すると、男女計で約400例減少。
2.がん死亡数予測
●がん死亡数予測(2018年)
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罹患数、死亡数ともに多いがんですから、かかりやすく致死率の高い怖いがんと思ってしまうところです。でも、実際はそうではありません。
大腸がんは、早期発見早期治療できれば、予後のよいがんの一つです。
実際、治療の有効率を示す5年生存率は、もっとも初期の病期であるステージ0で94パーセントとされています。他の臓器やリンパ節に転移するほどがんが成長していないので、死亡する人はほぼいないのです。
村上さんも、人間ドックの受診によってステージ0で発見されため、とてもスムーズに手術を受けられたとのこと。大腸を約30センチ切除したものの、抗がん剤などによる投薬治療も必要なく、最小限の治療ですんだのです。
◎大腸がんのステージ(病期)の分類と〈5年生存率〉
ステージ0:がんが粘膜のなかにとどまっている〈94.0%〉
ステージI:がんが大腸の壁(固有筋層)にとどまっている〈91.6%〉
ステージII:がんが大腸の壁(固有筋層)外まで浸潤している〈84.8%〉
ステージIII:リンパ節転移がある〈77.7%〉
ステージIV:遠隔転移(肝転移、肺転移)または腹膜播種がある〈18.8%〉
【前がん状態のポリープは検査で切除できる】
たとえ発見が遅れたとしても、大腸がんの場合、ステージIIIまでならば、8割近い5年生存率を示します。手術や投薬治療による効果がそれほど高い、ということです。
年に一度、検査を受けていれば大腸がんで命を落とす可能性はきわめて低くなるのです。
それなのになぜ、わが国では大腸がんで亡くなる人がこんなに多いのでしょうか。
最大の問題点は、村上さんのように「めんどう」といって検査を受けない人が多いことです。
大腸がんの検査では、まず「便潜血検査」(検便)が行われます。大腸がんやポリープなどの病変があれば、便の通過時に病変部がすれて出血する可能性が高くなります。
ただ、病変部があっても出血しない場合もあります。そのため、便潜血検査は通常2回行われます。1回の検査で潜血が見つかる可能性は30~56%、2~3回行って84%と推計されています。
つまり、検査の精度を上げるためには、少なくても2回はくり返す必要があるということです。
そして、2回中1回でも陽性になれば、病変部のある可能性が高いことから、精密検査が必要になります。
具体的には大腸カメラということになります。
ところが、この精密検査を「めんどう」と受けない人がとても多いのです。しかしそれは、早期発見によって命を守る可能性を自ら放棄するのと同じです。
なぜ、大腸がんの精密検査を「めんどう」と敬遠する人が多いのでしょうか。
いちばんの理由は、下剤を使うことにあるでしょう。
たとえば胃カメラならば、当日の朝食を抜けば検査を受けられます。ところが大腸カメラ(大腸内視鏡検査)の場合、朝食抜きに加えて、当日の朝に約2リットルの下剤を飲む必要があります。
これが患者さんにとってはつらい作業になります。しかも、朝に下剤を飲んで検査を受けられるのは、お昼前後。本人の準備が大変なのです。
しかし、下剤を使って大腸内をからっぽにすることは、小さなポリープまで見逃さないために、大事な準備です。大腸がんには、腸の粘膜から直接がんが発生するタイプがありますが頻度は高くありません。
多くの場合ポリープが徐々に大きくなってがん化していく事が多いのです。つまり、大腸にできるポリープは前がん状態なのです。
大腸カメラは肛門から入れることになりますが、ポリープならばその場で切除できます。
アメリカの報告では、ポリープの切除によって大腸がんの患者数が76~90%も減ったとされているのです。ポリープをすべて切除することは、大腸がん予防におけるもっとも確実な方法ということです。
施術者にお尻を見せなければいけなかったり、トイレに何度も行かなければならなかったりという難点はあると思います。でも、「人生を守る」という大儀の前にそれは欠かせないことですし、小さなポリープまで切除できれば大きな安心を感じられるでしょう。受診前は「めんどう」と感じていても、受診後には「受けてよかった」という人は少なくないのです。
大腸がんは40代から多くなる病気です。便潜血検査によって陰性と出ていても、40代になったら一度は大腸カメラでポリープの有無を検査しておくと安心と言えるでしょう。