お酒の飲み方 【かしこく飲んで、健康に活かそう】
医師 若杉慎司
令和がスタートし、1カ月が過ぎました。
今年は暑さの始まりが早く、また新しい年度に入って落ちついてきたころとあって、「ビールでも飲みに行きたいね」と声のかかる機会も多くなっているのではないでしょうか。
自宅でのんびり晩酌をし、一日の疲れをいやす時間が幸せ、という人も多いと思います。
そんなときに気になるのは、身体のこと。お酒は好きだけれども、健康は大丈夫か、太ってしまうのではないか、と一抹の不安を覚えることもあるでしょう。
でも、ご存じでしょうか。
お酒はストレスを緩和する作用がありますし、血行をよくする力もあります。
かしこく飲むことで、健康に活かすことができるのです。
また、「太りにくい飲み方」もあります。
かしこく飲むことを覚えれば、罪悪感も消えていき、心から楽しめるようになるでしょう。
そこで今回は、お酒をかしこくのむ方法について紹介しましょう。
【「血糖値スパイク」を起こしてはいけない】
まずは、お酒の種類について。
お酒には、「太りやすいお酒」「太りにくいお酒」があります。
両者の違いは、飲んだときに「血糖値が急上昇するかどうか」にあります。
「血糖値スパイク」という言葉をご存じでしょうか。
血糖値とは、血液中のブドウ糖の量のこと。食後短時間のうちに血糖値が急激に上昇し、短時間のうちに急降下する症状を血糖値スパイクと呼びます。
通常は、ゆるやかに上昇してから下降するはずの血糖値が、グラフにすると、釘(スパイク)のようにとがった線を描いて急激に変動することから、こう名づけられました。
血糖値スパイクを起こすと、糖尿病でない人であっても、急激な血糖値の上昇によって血管が傷つけられることになります。これによって、脳梗塞や心筋梗塞、がん、認知症のリスクが高まると報告されています。
なぜ、こうした症状が起こってしまうのでしょうか。
ブドウ糖など糖質を多く含むものを空っぽの胃に入れることが、大きな原因です。
ブドウ糖は、胃から小腸に届けられると優先的に吸収され、血液中に流されます。すると、すい臓から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンは、血液中から細胞内にブドウ糖をとり込む際に必要となるホルモンです。細胞内にとり込まれたブドウ糖は、細胞のエネルギー源として使われます。
血糖値が急激に上昇すると、インスリンもいっきに分泌されます。こうなると、今度は血糖値が急激に下がります。これが血糖値スパイクです。身体は低血糖の状態に弱く、この異常事態を回避するため、脳は再び血糖値を上げようとして食欲を増進させます。「もっと食べたい」「もっと飲みたい」という気持ちを高めさせるのです。
しかし、身体はいっきに大量のブドウ糖が入ってきても、消費しきれません。使われなかったブドウ糖は、脂肪に変換され、脂肪細胞に蓄えられることになります。
脂肪細胞は、脂肪を蓄えると数倍にも膨らみ、それでも蓄えられないほどの脂肪が入ってくると、細胞分裂をして数を増やしていくのです。
さらに、脂肪は肝臓にも蓄えられ、悪化すれば脂肪肝と呼ばれる状態になります。
脂肪肝を起こすと、肝臓の機能が衰え、肝炎や肝硬変、肝がんなどに進行するリスクを高めてしまいます。
こうした事態を起こさないためにも、お酒は糖質の少ない種類を選ぶことが、かしこい飲み方です。
糖質の多いお酒は、ビール、発泡酒、日本酒、ジュースや果実入りのチューハイ(サワー)などです。
最近は、低糖質のビールや発泡酒、チューハイも多くなってきました。でも、そうしたものには、人工甘味料を多く含むものが少なくありません。
確かに人工甘味料は血糖値を急上昇させることはありませんが、摂取しすぎると、味覚を狂わせ、脳の満足度を鈍らせるリスクが指摘されています。それによって食欲をかえって増進させてしまうことも考えられます。
「低糖質と書かれているから安心」と安易に考えず、購入に際しては、ラベルの原材料欄を確認することです。
一方、焼酎や泡盛、ウイスキーなどの蒸留酒は、糖質の少ないお酒です。製造の過程にて、糖質部分が失われるためです。
蒸留酒であれば、血糖値スパイクを起こす心配もなく、安心して飲めるでしょう。
とはいえ、仕事終わりのビール、のどにキューッとくる刺激がたまりませんよね。「とりあえず、ビール」といってしまう人の多くは、この刺激を求めているのだと思います。
身体も、ごくたまに少量のみの摂取であれば、対応できることもあります。
ですから、そうした人は、「仲間とわいわい楽しむ飲む日だけ、最初の1杯のみをビールを飲んでもよい」とルールを決めてはどうでしょうか。
その場合、2杯目以降は、焼酎やウイスキーをベースにしたお酒に切り替えます。
自宅での晩酌や、仕事のおつきあいでの飲み会などでは、血糖値スパイクを起こしにくいお酒を選ぶとよいでしょう。
最近は、炭酸水が流行しています。強炭酸の水は、ビールに匹敵する刺激があります。ふだんは、こうしたもので代用すると、健康にはとてもよいと思います。
なお、ワイン好きの人は、甘口より辛口を選ぶと、糖質の摂取量を減らすことができます。
また、鹿児島大学大学院医歯学総合研究所の乾明夫教授らの研究グループは、焼酎は食後の血糖値の上昇を抑える可能性が高いことを、実験によって確認しています。食後1時間後の血糖値を比較すると、水でさえ約50パーセント上昇したのに、焼酎の場合は約15パーセントにとどまったとのことです。
焼酎は、「ダイエットや糖尿病予防によいお酒」ともいえるのでしょう。
ただし、これは適量を飲んだ場合の話。飲みすぎれば、焼酎であっても肝機能を衰えさせる原因になります。お酒はゆっくり、ちびりちびりと飲み、食事が終わったら、パッと切り上げる。ダラダラと飲み続けないことも、健康増進には大事なルールです。
【かしこいおつまみの選び方】
では、つまみの選び方は、どんなことに気をつけるとよいでしょうか。
もっともよくないのは、「すきっ腹にビール」です。血糖値スパイクを引き起こすいちばんの原因です。
また、お酒を飲む際には、糖質を多く含む食べ物は控えることです。
具体的には、ご飯類やパン、ラーメン、うどん、パスタ、ピザなどです。
根菜にも、糖質は多くなります。じゃがいも、かぼちゃ、さつまいも、れんこんなどです。根菜は良質な栄養素を豊富に含みますが、すきっ腹に食べてしまうと、血糖値スパイクを起こす原因にもなってしまいます。
果物やスイーツ類にも、糖質は豊富です。
一方、お酒を飲む前に食べるとよいのは、キャベツです。
キャベツには、胃腸の粘膜を守る成分が含まれています。胃薬の「キャベジン」は有名ですが、あの薬の有効成分であるビタミンUは、キャベツから見つかった栄養素です。
なお、食事の最初に野菜を食べ、食物繊維をとっておくと、そのあと入ってくるブドウ糖の吸収をゆるやかにでき、血糖値スパイクを防ぐことができます。
サラダなどの生野菜を食べれば、ビタミンCなどの水溶性の栄養素を効率よく摂取できます。一方、温野菜を食べると、加熱することで水分が抜けるぶんかさが減って、食物繊維を多く摂取できます。よって、生野菜と温野菜、どちらもバランスよく食べておくとよいでしょう。
豆腐や枝豆、まぐろ、サバ、サンマ、ブリ、イワシ、ホタテ、鶏ささみなどは、コレステロール量が少ないので肝臓に与える負担が少ないうえ、良質のたんぱく質を多く含みます。おすすめのおつまみといえるでしょう。
アサリやハマグリの酒蒸し、チーズ類などもおすすめです。
反対に、レバーやばら肉、砂肝、鶏手羽、シシャモ、甘えび、たらこなどは、居酒屋の定番メニューですが、コレステロール量が多いので、酒量の進みやすい宴会では、あまりおすすめはできません。食べるにしても、少量のみにするとよいと思います。
以上の点に気をつけて、「お酒を飲むときのルール」を自分でつくっておくことです。
そうすることで、「健康を壊したらどうしよう」「太っちゃうかな」と心配することなく、楽しんでお酒を飲めるようになるでしょう。