マイクロRNAは夢のがん診断になるのか?ーリキッドバイオプシーとは
医師 若杉慎司
わずかな量の採血や尿で13種類のがんを早期に診断できる「マイクロRNA」が実用段階の手前まで来ています。
これまでがんの確定診断は直接体に針を刺したり内視鏡で観察することで細胞を採取し行っていましたが、尿や血液などの液体で診断することをリキッドバイオプシーと呼んでいます。
リキッドバイオプシーのひとつであるマイクロRNAけんさとは一体どんな検査なのでしょうか。
男性の6割、女性の5割ほどが一生の間にがんを発症しています。
肺がん、胃がん、大腸がん、乳がんなどは頻度の高いがんです。
胃がん、大腸がん、乳がんは診断しやすく治癒率が高いですが、肺がん、膵がん、卵巣がんなどは診断が困難で生存率が低いことが問題です。
通常のがん検診では治癒しやすい早期がんの段階で診断することは難しいのです。
がんの検査のひとつに腫瘍マーカーがありますが、進行がんでの陽性率は4割程度でがんがなくても陽性になることが多いのが問題です。
さらに、1つのマーカーが異常でも多くの臓器で陽性になるので特定するのにたくさんのがんの検査をしなくてはなりません。
例えばCEAというマーカーが上昇していると、胃がん、肺がん、大腸がん、子宮がんなどを疑ってそれぞれ検査することになるわけです。
がんと異常値をしめす腫瘍マーカー
胃がん STN CA72-4 CEA TPA CA19-9 SPAN-1 DUPAN-2 NCC-ST-439 CA-125 CA54/61
肺がん CEA TPA NCC-ST-439 SLX CYFRA SCC NSE Pro-GRP BFP CA-125
肝がん AFP AFPレクチン分画 PIVKA-II CEA BFP TPA CA19-9 SPAN-1 DUPAN-2 NCC-ST-439 SLX
膵臓がん CA19-9 エラスターゼ1 SPAN-1 DUPAN-2 NCC-ST-439 SLX CEA BFP TPA CA-125 STN CA72-4 CA54/61
食道がん p53抗体 CEA SCC
大腸がん CEA TPA p53抗体 BFP CA19-9 SPAN-1 NCC-ST-439 STN CA72-4 CA54/61
乳がん CA15-3 HER-2 NCC-ST-439 BCA225 p53抗体 TPA
子宮がん SCC CEA BFP TPA CA-125 CA602 STN CA72-4 CA54/61
卵巣がん CA125 SLX CA602 STN CA72-4 CA54/61 GAT CEA BFP TPA NCC-ST-439
前立腺がん PSA PSA・F/T比 PAP PSA-ACT γ-Sm BFP TPA
マイクロRNAが優れているのは、早期がんの段階で診断でき、腫瘍マーカーと違ってがんの部位を特定できることなのです。
それではマイクロRNAのよるがん診断とはどんな検査なのでしょうか。
生命の維持に必須の情報はDNAにあり設計図のような存在です。
その情報はRNAからタンパクという流れで発現します。人種、性別、性格、病気になる確率などは設計書のDNAで決まります。
マイクロRNAはRNAの断片で、当初はあまり意味のないものと考えられていましたが、研究が進むにつれて遺伝子の発現のコントロールに重要な作用をしていることが分かってきました。
最近、がん細胞がマイクロRNAを利用して血管新生を促したり転移をしやすくしたりすることが分かりました。したがって細胞外に出ているマイクロRNAを検出することでがんを診断できるわけです。しかも、臓器別にがん細胞が放出するマイクロRNAが特定されてきたのです。
東大と東芝での共同研究により数年以内に早期がんで検出度99%の検査が実用になる予定です。
https://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/1911_06.htm
こういう検査を人間ドックとうまく組み合わせることでがん診断がより容易になってゆくことが期待されます。