新型コロナのPCR検査とはどんなものでしょう
医師 若杉慎司
新型コロナ感染者数とPCR検査での陽性率が毎日発表され、ともに増加傾向であることが私たちを不安に陥れています。
咽頭ぬぐい液のみならず唾液での検査も保険適応になりましたが、PCR検査の提供にいろいろな問題も出てきています。
新型コロナウィルスを検出するPCR検査とはどういうものなのでしょうか。
ほぼすべての生命体には遺伝子の本体であるDNAという設計図があって種、性別、特徴が決まってきます。
コロナウィルスはちょっと変わっていてRNAウィルスです。ちなみにインフルエンザ、ノロ、HIVもRNAウィルスです。
DNAはアデニン、チミン、シトシン、グアニンの4つの塩基が並んだ鎖が対になってらせん状構造になっていて安定しています。遺伝子の情報はいったん二重らせんがほどかれ、そこから情報が1本鎖のRNAに転写され最終的にタンパクになって身体を作ったり、生体活動をコントロールします。
RNAウィルスは1本鎖で不安定なので変異しやすいのが特徴です。
PCRはポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)の略です。
例えば咽頭ぬぐい液を検体とする場合、綿棒の先につくウィルス量はわずかでそのままでは検出できません。ウィルス量を増やすことが必要です。
1、PCRはまず94℃の高温にしてDNAの2本鎖を1本鎖にほどきます。
2、60℃程度に冷却して1本鎖のDNAに反応の呼び水になるプライマーという短い塩基を末端に結合させます。(アニーリング)
3、60から72℃にやや加熱してプライマーを起点としてポリメラーゼが1本鎖DNAに塩基を順に貼り付けていきます。反対の末端まで反応が進むと2本鎖DNAが2本できるわけで数が2倍になります。
ここで1に戻ればまた反応が再開します。
これを数回から数十回繰り返すことでDNAは倍々に増えていきます。
増えたDNAを電気泳動して標的の遺伝子があるかを特定します。
PCRはDNAをプライマーとポリメラーゼ、塩基を用いて熱反応で増殖させるものです。
温度を変えながら繰り返し反応させるので数十分から数時間の時間を要するのです。
コロナウィルスは1本鎖のRNAウィルスなので、通常のPCRの前に2本鎖にする工程(RT-PCR、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)が必要です。
コロナウィルスは変異しやすいですが、PCRでは変異しない部分を標的にしますから、変異してもPCRで検出できます。
私も以前外科医の傍らがん遺伝子の研究をしていてPCRは最も使った手法でした。
昔は標本からRNAを抽出したりプライマーを自作していたのでPCRは煩雑な検査でした。増幅するのでちょっとでも検体が汚れると(コンタミネーション)、偽陰性や擬陽性が出てしまい気を使ったのを覚えています。
現在では以下のようなメーカー製のキットが出ていて時間が短縮され大分ハードルは下がりました。
島津のキット
https://www.an.shimadzu.co.jp/bio/reagents/covid-19/index.htm
東洋紡のキット
https://www.toyobo.co.jp/system/files/News_Release/202005/press_20200512_1.pdf
タカラバイオのキット
http://catalog.takara-bio.co.jp/PDFS/rc300b_n_3.pdf
PCRの機械自体は大学、研究機関、検査機関に実は相当数配備されています。
キットの出現で手技も大分簡素化されました。
PCRの検査を増やすべきという意見があって大学や研究機関での検査を求める声も上がっていますが、新型コロナの検体を扱うのはリスクが高いので慎重にならなくてはなりません。通常の研究の合間にコロナの検体を扱うのは難しいでしょう。クラスターになってしまう可能性があるからです。
PCRに習熟したスタッフは十分にいますから、独立した部門と人員を各所に少しずつ増やしていくことになるでしょうか。
以下 最新情報です。
新型コロナのPCR検査陽性率 数値をどう解釈すべきか
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200801-00190914/