新型コロナ感染症 ー スペイン風邪に学ぶ
医師 若杉慎司
毎日新型コロナの新規感染者が発表され、じわじわと感染者が増えてきていることが私たちを不安にさせています。
全世界での新型コロナによる死者数は50万人を超えましたが、スペイン風邪の総感染者数は世界人口19億人のうち5億人で、死者数は2000万人から1億人と言われています。
ここまで死亡者が出たのは医療の質が一番の原因ですが、さらに1914年に始まった第一次世界大戦が背景にありました。戦時下では軍隊も一般人も3密、栄養不足、医療不足になりやすいので、感染が拡大したのでしょう。戦時中で各国が疾病環境の情報を隠蔽しましたが、スペインは中立国で発症の報告をしていたためスペイン風邪と呼ばれました。
1918年の終戦間際に第一波がアメリカ3月にで発生し、アメリカ軍がヨーロッパに侵攻して5月より感染拡大がありました。第二波は同年秋に世界で同時に始まり病原性の変化により死者数が増加しました。第三波は1919年春から秋でした。第二で死亡者が増えたのはインフルエンザウィルスが変異したためと考えられています。
日本では第二、三波はそれぞれ1,2年遅く発生しています。
スペイン風邪の日本での対策は以下のようなものでしたが、現代とほぼ変わらないのは驚きですね。
・マスク着用
・人ゴミに出ない
・帰宅時等のうがい
・大規模イベントの中止・自粛
・学校の休校
・患者の隔離
当時の標語
スペイン風邪と新型コロナとの大きな違いは、スペイン風邪では若年者が、新型コロナでは高齢者が主に重症化したことです。
スペイン風邪では高齢者に、新型コロナでは若年者になんらかの理由で免疫があったからと想像されています。
1997年にアラスカの凍土で発掘された遺体からウィルスが検出され、遺伝子を解析して、スペイン風邪はH1N1亜型で鳥インフルエンザウィルスが変異してヒトに感染するようになったことが分かりました。
新型コロナにおいて、諸外国と比較して日本の感染者、死亡者が少ないことはいろいろな議論を呼んでいます。BCG接種率が高い、人種的な因子、マスクをする習慣がある、手洗いやうがいが習慣化されている、毎日風呂に入る、靴を脱いで家に入るなどの理由が考えられていますが、確定されているものではありません。
上の図でMは100万、Kは1000を意味します。
これを見ると人類の歴史は感染症との戦いの連続でした。
ペストが18世紀初頭、コレラ19世紀初頭、スペイン風邪1918年、新型コロナウィルス2020年と世界規模の感染症はなぜか100年ごとに発生しています。
そして、今回の新型コロナのような大規模なコロナ感染は今まではなかったことが分かります。
人類が初めて遭遇したコロナの爆発感染なのです。
いろいろな治療薬が試されていますが、特効薬はありません。新型コロナ専用の薬が実用化されるのはかなり先になりそうです。
ワクチンの開発は急ピッチで進められていますが、有効なものがいつ完成し製品化されるかは不明です。
新型コロナウィルスは変異しやすい構造なので第二波での病原性の増大が懸念されています。
現在のところはスペイン風邪の対策と同じように、「感染しない、感染を広げない」対策を地道にしてゆくしかないようです。
若い方が夜の街で感染を増やし、中年以降の世代にうつることで重症例が増えるという図式が確認されつつあります。
医療と経済、平和な生活が表裏一体であることが今回の新型コロナで再確認さ
れました。
個人個人がお互いに思いやって、感染拡大を防いで、経済活動も仕事、学校、スポーツ、リクリエーションの環境もゆっくり確実に元に戻してゆきたいものですね。