中学生のピロリ除菌が始まっています
医師 若杉慎司
昨年から中学生のピロリ菌の検査をする自治体が増えてきていることをご存知でしょうか。
すでに40歳から健診に組み合わせてピロリ菌を検査し陽性の方には保険で除菌できるようになっています。
日本人のピロリ菌保菌者は多く、50歳以上では約70~80%を占め、20代~30代では10~20%、10代では5%程度です。5歳までに感染することが知られています。20代~30代までに除菌すれば男女ともほぼ100%胃がんが抑制でき、40代で90%、50代で80%、60代~70代でも30~60%の抑制効果があります。一度除菌すれば再感染することはほぼありません。
胃がんの原因の99%はピロリ菌であり、がん死の原因の第3位(数年前までは2位)が胃がんであることを考えるとピロリ菌検査および除菌の重要性は明らかです。
40歳以上の健診でのピロリ菌陽性者は、まず保険で胃カメラを受けることになります。ピロリ菌による疾患である胃潰瘍、十二指腸潰瘍胃潰瘍、や胃がんがないことを確認します。十二指腸潰瘍の 70-90%はピロリ菌 感染によって起こると考えられています。もし疾患があればまず治療を行います。胃カメラでは萎縮の程度からその後に胃がんになりやすいかをある程度予測することができます。その後に保険で内服治療による除菌に進みます。数か月後に除菌が成功したかを確認し、除菌が成功していなければ2次除菌を受けることになります。2次で成功しない場合は3次除菌の選択肢がありますが保険での対象ではありません。
中学生のピロリ菌検査は簡便な尿検査で行います。尿検査は擬陽性(ピロリ菌が存在しないのに陽性になること)が3割ほどと多いので尿検査で陽性の方は呼気テストを受けます。呼気テストでも陽性の場合は除菌治療をすることになります。この場合は保険ではできず、自治体が費用を負担することが一般的です。胃カメラは特に症状がなければ行いません。
胃酸の分泌をおさえる薬(プロトンポンプ阻害剤)と抗菌薬2種類(アモキシシリン とクラリスロマイシン(1回目)またはメトロニダゾール(2回目))の計3種類の薬 を1週間内服することで、ピロリ菌の治療(除菌治療)ができます。中学生の場合は抗生物質で腸内細菌が減少するのを予防するため整腸剤を併用します。副作用としては何べんや下痢が見られることがあります。軽度であれば治療を継続し、まれですが脱水になるような下痢や血便の場合は治療中止となります。
現在は自治体で中学生のピロリ菌検査、除菌をしているのは3割ほどです。近年中に全国で実施されることになるでしょう。現在のところ男性の9人に1人、女性の18人に1人が胃がんを発症しています。中学生の除菌が徹底すれば40年後には胃がんの発症は1%を切ることになります。
人間ドックや自治体での健診に携わって長年経ちますが、40歳以降でピロリ菌検査を受けている方はまだ半数にも満たないのを目の当たりにしています。
全世代でのピロリ菌に対する意識が高まることが望まれます。
関連リンク
http://www.mdcexam.net/found/cancer/gastric_cancer.html