人間ドックで分かるコロナウィルスによる重症化リスク
医師 若杉慎司
世界規模で急速に感染拡大を起こしている新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)。
世界中の情報がネット上で拡散し日々新しい情報を知ることが出来ています。
そのリスク因子はどういうものでしょうか。
重症化のポイントは以下です。
1、高血圧症、糖尿病、肺疾患が基礎にある場合は重症化しやすい
2、これまでのウィルス感染からの肺炎のような合併症としての細菌性肺炎ではなく肺実質に水分がたまり呼吸不全となって重症化する
高血圧や糖尿病がベースにあって狭心症や心筋梗塞の既往がある場合に重症化しやすいことが分かっています。心臓の機能が低下していれば肺炎で酸素の供給が不十分になってさらに心機能は悪化するでしょう。心機能の悪化で肺への血流が低下すれば酸素を吸収して二酸化炭素を排出することが出来なくなり血中酸素濃度が低下して全身の臓器の働きに支障をきたします。
一般的に風邪などのウィルス感染からの肺炎は細菌性で気管支内に浸出液や痰が貯留し空気の出入りを妨げ呼吸しずらくなり重症化します。従って重症化した場合は気管支挿管し人工呼吸器で酸素を供給しつつ痰を除去し改善することが多かったのです。
しかし、COVID-19による肺炎は痰があまりなく肺実質に水分が溜まって呼吸できなくなるので挿管と人工呼吸器だけで対応できない場合があり、人工心肺(ECMO)が必要になります。先日志村けんさんの治療が人工呼吸器からECMOに切り替わったことが報道されました。日本には1400台ほどのECMO装置があります。ECMOは人工呼吸器よりも高度な管理を要し必要な医療従事者の数は多くなります。ヨーロッパのような爆発的な感染を起こせば人工呼吸器もECMOも足りなくなるのは明らかです。
感染爆発が後から来たアメリカやヨーロッパのような感染拡大となれば医療の充実した日本でも医療崩壊するのは目に見えています。
もちろん以下の感染対策が最も大切です。
・外出を控える。
・クラスターになりうる場所に近づかない。
・帰宅時や施設に入る場合にはハンドソープでの十分な手洗いの後にアルコールか次亜塩素水で消毒する。
・咳や発熱があれば外出時には必ずマスクを着用する。
・睡眠不足、過労、飲酒しすぎ、ストレスなどで免疫低下するのを避ける。
・マスクを外した際に手で口や鼻を触らない。
感染した場合に重症化しないためにはどうしたらいいでしょうか。
人間ドックではリスクの程度を評価することが出来ます。
1、高血圧
すでに高血圧の治療を受けている方は比較的問題はありません。血圧が高いが放置している、狭心症や心筋梗塞の既往がある方は要注意です。人間ドックで血圧が高い場合や心電図で心筋梗塞の既往が疑われた場合は治療や精査が必要になります。
2、糖尿病
糖尿病は動脈硬化を最も進行させます。人間ドックで空腹時血糖やHbA1cが高い場合は食事・運動療法を心掛け、必要なら通院加療を徹底することです。検査も対策もしなければ気付かずに心筋梗塞、狭心症のリスクが高まります。30代からすでに糖尿病予備軍になっている方は少なくありません。
もう一つの問題は超尿病による免疫低下です。ウィルスや細菌での感染に弱いのが糖尿病の特徴です。COVID-19からの肺炎は重症化しやすく治癒しにくくなります。
治療中であればデータで把握できますが、予備軍の場合は人間ドックなどでチェックすることが重要です。
3、肺疾患 喫煙者
過去の肺炎や結核などの感染症の既往がある方、喫煙でのCOPDの方はハイリスクとなります。人間ドックでの胸部CTで過去の肺の感染症による炎症の程度やCOPDによる肺気腫の程度が分かります。希望者には肺機能検査も行っています。
また呼気中の一酸化炭素濃度測定で数値が高い方は肺機能が低下している可能性が高くなりますので禁煙が必要となります。中国のデータでは喫煙者の死亡率は14倍です。
禁煙の効果は数週間で現れて肺炎の発症リスクは低下します。COVID-19の収束はいつになるかわかりません。肺炎になる多くは高齢者ですが若年層にも散見されます。喫煙でのタールの摂取が動脈硬化と肺機能低下を起こしますから、タールを減らせる加熱式たばこに切り替えたり禁煙外来での確実な禁煙は特におすすめしたいと思っています。
COVID-19 で重要なのは感染しないことと重症化予防です。
行動変容で感染に気を付け、健診や人間ドックなどのデータを見直して高血圧や糖尿病の兆候がないかを確認し必要なら対策し、禁煙を目指すことが重要です。