がん検診はなぜ必要なのでしょう①
医師 若杉慎司
日本人の死因の第一位はがんです。
世界的にも先進国ではこの傾向は続いています。
やはりがんは治しにくい疾患であることが分かります。
近年のがんの動向についてみてみましょう。
1、がんの発症部位
男女では大分差がありますね。
●2017年の罹患数が多い部位は順に
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | ||
男性 | 前立腺 | 胃 | 大腸 | 肺 | 肝臓 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸4位、直腸5位 |
女性 | 乳房 | 大腸 | 肺 | 胃 | 子宮 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸2位、直腸7位 |
総数 | 大腸 | 胃 | 肺 | 乳房 | 前立腺 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、結腸3位、直腸6位
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共通するのは胃がんと大腸がんの発症が多いことです。
胃がんは40歳からと中学生のピロリ検査と除菌が進められており、これから減少してゆくがんです。自治体や会社健診で胃カメラを選択できる機会が増えており早期での診断も期待できる環境になってきています。
大腸がんはがん検診での便潜血検査が重要です。陽性の場合は必ず大腸カメラを受けましょう。多くの場合ポリープが見つかります。ある程度のサイズになったポリープの段階で切除することで9割の大腸がんへの移行が予防されます。一度大腸にポリープが見つかった場合は1年から3年の周期で大腸カメラを受けることになります。大腸ポリープは切除した後にまた別な場所に再発することが多いからです。大腸ポリープを経ないで大腸がんが発症する確率は数%と言われていますから、大腸ポリープを便潜血検査で探すことは大変意味のあることです。
肺がんは喫煙が最大の原因ですが、喫煙率の減少や加熱式たばこの普及により今後は減少すると思われます。胸部レントゲンでの見落としが問題になっていますが、胸部CTでのスクリーニングも増えてきていますので早期診断のチャンスは増えるでしょう。ブリンクマン係数(一日の喫煙本数×喫煙年数)が600を超えている方は特に胸部CTの年に一度の検査は有用です。
前立腺がんは加齢によって急激に増えてきます。80歳以上では解剖所見で9割を超えて前立腺がんが見つかります。転移する前に診断すれば治療は容易です。
PSAという腫瘍マーカーで診断され易いのですが通常のがん検診で含まれた居ないことが多いので、50歳を超えたら自費でお受けになってください。2000円ほどで受けることができます。
肝がんはほとんどがB型、C型肝炎ウィルスの感染症が原因です。この二つのウィルスの有無は通常の健診に含まれており、肝機能異常があれば慢性肝炎ということで保険診療で定期検査や治療が開始されます。多くは肝機能異常のないキャリアーです。現在では効果が少なく副作用の多いインターフェロンの治療は行われず、ウィルスの消失ができるようになりました。慢性肝炎を放置すると肝硬変や肝がんに移行します。しかし10年から30年のスパンでの進行ですから、健診で見つかっても正しい治療をすれば問題のない疾患です。
女性の乳がんは11人に一人の発症ですから大変多いと言えます。増加の原因としては妊娠回数が減ったこと、栄養状態が良くなって初潮が早まり閉経が遅くなったことです。30代から発症が始まり40代50代で発症のピークを迎えます。検診のポイントとしては30代では乳腺超音波検査が、40代以降はマンモグラフィーが診断に有用であることです。乳腺の発達した30代ではレントゲンが通りにくく診断しにくいからです。マンモグラフィーは痛いからと敬遠する方が多いのですが40歳になったら2年に一度の検査は重要です。乳がんの5年生存率は90%を超え、命にかかわりにくいがんです。しかし、進行すれば抗がん剤、放射線療法、ホルモン療法、抗体療法と沢山の治療を受けることになりその負担は大きいものになります。早期に診断し小さい切除範囲で済ませ、その他の治療を最小限に収めたいものです。
子宮がんは子宮頸がんと子宮体がんの二つがあります。
子宮頸がんは発症のピークが30歳代で原因はパピローマウィルスです。対策としてはワクチンの接種と20歳からの2年に一度の検診です。今日本の医療での問題の一つは発展途上国を含めても日本のワクチン接種率と検診受診率が極端に低いことです。日本女性の子宮は世界で最も危険に曝されているといわれるゆえんです。昨年ノーベル賞を受けた京都大学の本庶佑特別教授はノーベル賞授賞式の後の記者会見で日本でのワクチン接種の少なさに警鐘を鳴らされました。
ワクチンの有効性は高く、検診での診断は容易です。今後両者の普及が進むことを願いたいと思います。
子宮体がんは肥満、閉経が遅い、出産経験がないなどが原因になります。残念ながら健診の効果が不明で導入していない自治体や健保もあります。自費で受けると5000円ほどになります。生理以外の不正性器出血が目安になりますので、そういう症状が見られたら受診しましょう。