冬の脳卒中に気をつけましょう 【40歳をすぎたら脳卒中に注意を】
医師 若杉慎司
暖かい日が多くなってきましたが、まだまだ朝夕は冷えますね。
こうした時期に、40歳以上の人が気をつけなければいけないのは、脳卒中の発症です。冬の冷たい空気は血管を収縮させ、血圧を上昇させやすく、脳卒中を起こしやすいのです。
脳卒中には、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血があります。
脳梗塞は、脳の血管に血栓(血の塊)がつまって閉塞することで発症します。処置が早ければ命は助かるものの、麻痺や意識障害、運動障害、言語障害などを起こすケースが多くなります。
脳出血は脳内の血管がやぶけて出血を起こす状態のことです。原因としてもっとも多いのが高血圧です。現在、日本には高血圧の人が約4300万人もいると推計されています。
くも膜下出血は、動脈瘤が破裂して、くも膜下腔という部分に出血が起こります。死亡率が最も高い怖い疾患です。
以前、日本では脳出血の発症率が高かったのですが、現在は脳梗塞の発症率が65%にのぼっています。
脳梗塞には、多くの場合、前兆となる症状がみられます。この前兆を知っておくことが、重症化させないためには大事です。そして前兆と考えられる症状が現れた際には、迷わず医療機関を受診することです。以下のような症状は、短時間で消えてしまいます。ただ、放置すると、まもなく本格的に発症するケースが多いのです。
《脳梗塞の前兆》
・ 手足の力が突然ぬける
・ 左右どちらかの手、もしくは足が突然動かなくなったり、しびれたりする
・左右どちらかの目が突然見えにくくなる
・言葉が出てこなくなったり、ろれつが回らなくなったりする
なお、脳出血やくも膜下出血は、「これ」と断言できるような前兆の症状がありません。ただ、突然ものが二重に見えたり、経験のないような強烈な頭痛がしたりするケースがよくみられます。
いずれにしろ、脳に異常が生じると、言葉や感覚に症状が現れます。言葉に障害が起こったり、手足や目の感覚に異常と感じられる症状が生じたりした際には、できるだけ早く受診しましょう。
なお、冬に脳卒中が起こりやすいのは、寒暖の差が血管に大きな負担を与えるからでもあります。ですから、暖房の効いた部屋から寒い部屋への移動には十分に注意することです。たとえば、入浴の前には浴室を十分に暖めておくことが大事です。夜中にトイレに行く際や朝の起床時には、ふくらはぎを軽くマッサージしてから立ち上がることをおすすめします。
【早期発見には年に一度の頭部CTを】
脳卒中の原因には、多くの場合、動脈硬化があります。
動脈硬化とは、血管が硬くなったり、血管壁が厚くなったりして、動脈の働きが悪くなる病変のことです。主な原因は、コレステロールを中心とした脂質が動脈の血管壁にたまり、内腔を狭くすることから起こってきます。結果、血流が滞りやすくなり、血管壁の細胞が傷ついて血栓ができやすくなるのです。この血栓が脳でつまると脳梗塞。また、動脈硬化によって脳内の血管が破けると、脳出血やくも膜下出血になります。
なお、動脈硬化は、早い人で20~30代で始まり、50~60代になると進行した状態になる人が多くなります。
脳の病気がゥあtが割れたときは頭部CTが有用です。
頭部CTでは、脳梗塞や脳内出血、くも膜下出血のほかにも、脳腫瘍、脳奇形、脳浮腫、硬膜下血種、下垂体腫瘍、副鼻腔炎、眼窩底骨折、頭蓋骨骨折などの診断ができます。
さらに、50歳以上の方は、脳ドックを数年に一度受けておくと安心です。脳ドックとは、MRI(磁気共鳴映像法)によって脳の疾患や萎縮の発症を診察するための検査法です。大きな磁石による磁場と電波を使って体の状態を正確に画像化していきます。それによってより詳しく頭部の診断ができ、脳の細かな血管の状態までわかります。動脈硬化による脳血管の状態、頸動脈の狭小化(内腔が狭くなること)、さらに破裂のリスクが高くなる動脈瘤の有無まで、詳細な情報を得ることができます。10から20分弱と検査時間が長いことと、費用が比較的かさむことが難点ですが、頭部の検査としてはもっとも優れています。
以上のような画像検査を定期的に受けておくと、症状が現れる前の病変を発見でき、治療を早期に開始できます。どんな病気も、症状を自覚したときには、状態がかなり進行しているケースが少なくありません。
たった一つしかない命、そしてかけがえのない人生を守るためには、早期発見、早期治療が欠かせないのです。
また、画像検査では自分の脳内の状態がよくわかり、どんな生活改善が必要かを客観的に把握できます。そのことも、健康寿命をのばすために大切なことなのです。
脳卒中の最大の原因はメタボリックシンドロームですが、ここではコレステロールに注目してみましょう。
【悪玉を減らし、善玉を増やす生活を】
動脈硬化の原因物質となるのは、主にLDLコレステロールです。細胞膜の材料などになり、血液を通して身体各部に運ばれるコレステロールです。健康に不可欠な成分なのですが、反面、血管によぶんにたまってしまうと動脈硬化の原因になります。
なお、コレステロールには善玉と呼ばれるHDLコレステロールがあります。よぶんなコレステロールを身体各部から回収し、動脈硬化を防ぐ働きがあります。
40歳を過ぎたら、LDLコレステロールを減らして、HDLコレステロールを増やす生活を心がけていくことも、突然死を防ぐには大事なことです。
そのために重要なのは以下の3つです。
① 腹8分目を心がける
摂取エネルギーが必要以上に増えると、体内にてLDLコレステロールが合成されます。食べ過ぎに注意し、腹8分目を心がけましょう。
② LDLコレステロールを減らす食品を摂る
LDLコレステロールを減らす食品を積極的に摂りましょう。反対に、LDLコレステロールを増やす食品の食べすぎには気をつけましょう。
《LDLコレステロールを減らす食品》
●植物性タンパク質(大豆や豆腐、納豆など)
●水溶性食物繊維(海藻、きのこ、豆、根菜など)
●動物性たんぱく質(赤身まぐろ、鶏ささみ、ツナ缶、かき、はまぐり、あさり、ほたてなど)
●魚類(イワシ、サバ、マグロ)に多い不飽和脂肪酸(DHA、EPA)
●野菜類(ブロッコリー、芽キャベツ、青菜、ピーマン、れんこん、ごぼう、切り干し大根など)
《LDLコレステロールを増やす食品》
●動物性脂質(鶏卵、うなぎ、レバー、牛タン、牛もつ、豚肩ロース肉、鶏手羽、鶏皮、生うに、甘えび、たらこ、するめ、チーズ、バター、ベーコン、生クリームなど)
③ LDLコレステロールの酸化を防ぐ
血液中のLDLコレステロールが酸化すると、血栓ができやすくなります。酸化を起こす最大の要因はタバコ。禁煙が大事です。なお、酸化を防ぐためには、緑黄色野菜やナッツ類など、抗酸化力のあるビタミンCやEを含む食品を多めに摂りましょう。
適度の運動も大切です。寒い今の季節、外に出る気力も失せやすく、家のなかでぬくぬくしていたいものですが、こうした時期だからこそ、適度に身体を動かすことで体内の状態をよくしていきましょう。
運動が必要といっても、がんばって身体を動かすほどの運動が必要なわけではありません。ウォーキングなら1日30分程度を週4日以上行えばOK。それだけでHDLコレステロールを増やしていけます。
ウォーキングをする暇のない人は、駅や会社の階段を自分の足で歩くようにすると、高い運動効果を期待できます。食料品を買いにいく際には車を使わず、歩いていくだけでもよいのです。
ただし、ここでも寒暖の差には要注意。外出の際にはマフラーや手袋、帽子などをつけて防寒をしっかりと心がけましょう。