喫煙は膵がんリスクを高める ー 日本人での研究で
医師 若杉慎司
喫煙は肺がんをはじめとして胃がん、肝がん、子宮頸がん、食道がんなどの発症リスクを高めることが分かっています。
以下の表でいろいろな因子と各種がんの関連が強いものが茶色で示されています。
今回は喫煙と膵がん発症の関連の研究です。
1、研究方法 10の研究報告のコホート研究をプール解析
愛知県がんセンターの小栁 友理子氏ら
Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌オンライン版2019年5月21日号
コホート研究とは 一定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。要因対照研究(factor-control study)とも呼ばれる。
プール解析とは 複数の研究の元データを集めて再解析する方法である。
プール解析は多くの研究結果をまとめて解析するのでデータ量が多くより信頼性のある結果を得やすい傾向にあります。
2、結果
・男性では(HR:1.59、95%CI:1.32~1.91)、女性(HR:1.81、95%CI:1.43~2.30)だった。
HRとは原因による疾患の発症頻度の増減を表します。男性は1.59なので1.59倍、女性では1.8倍になるということです。
95%CIとは95%信頼区間のことで、1を超えていれば有意に増加しているということになります。
・タバコ1箱を吸う期間が20年以下でも、女性では有意に膵がんリスクが高かった。
・男性では1箱を10年吸うごとに膵がんリスクが有意に6%増加した。
・男性では、禁煙後5年で、膵がんリスクは非喫煙者と同じになったが、女性では禁煙によるリスク減少はなかった。
たばこは吸わないこと、喫煙していたら禁煙することが重要ですね。
他国での研究では女性でも禁煙で膵がん発症は減少していますので、けして手遅れではありません。
目次
膵臓がんも発症予防と早期診断・早期治療
日本の場合、膵臓がんの年間の死亡数は男性1万7100人(がん全体に占める割合8%)、女性1万6600人(11%)膵臓がんは年齢により発生率が高くなる傾向があります。
外科手術を含めた治療を開始してからの5年生存率(相対生存率)は、ステージIで41.2%、IIで18.3%、IIIで6.1%、IVで1.4%、全症例9.2%と極めて低い状態です。
臓器別では最も難治性のがんであると言えます。
外科手術以外の治療法も進化しつつあり、手術や放射線療法、抗がん剤などを組み合わせた治療法により、生存率も少しずつ上がりつつあるので諦めずに治療を続けることがです。
膵臓がんのリスクを高める要因には、喫煙以外に慢性の膵炎や糖尿病、膵臓がんにかかった遺伝的に近い血縁者の存在、そして肥満や喫煙、飲酒などがあります。
現在のところでは膵がんの早期診断は困難ですが、リスクの高い方は腹部超音波検査、腫瘍マーカーの定期的な検査は受けた方がいいと言えます。