禁煙のおすすめ がんや加熱式タバコの最新の話題
医師 若杉慎司
健康維持のポイントは健康に寄与するファクターを増やし健康に害になるファクターを減らすことです。
健康を害する代表が喫煙であることは言うまでもありません。
以下、データをお示ししつつ解説してゆきましょう。
簡単に言うとたばこで約13万人が命を落としているということになりますね。
高血圧、運動不足、高血糖(糖尿病)、塩分、アルコール、ピロリ菌、悪玉コレステロールが続きます。
高血圧や糖尿病、コレステロールは適切な投薬や生活習慣で問題はなくなります。
運動、塩分、アルコールは自身の自覚次第です。
B・C型肝炎ウィルスについては有効な治療が確立しており、以前のように肝硬変や肝細胞がんに進行する例は激減しました。
たばこの問題はやはりがんの発症を増やすことです。
この表はたばこと発がんの関連性を示しています。
たばこと発がんの関連がほぼ確実なものが茶色で表示されています。
それは、肺がん、肝がん、胃がん、食道がん、膵がん、子宮頸がん、頭頚部がんです。
飲酒は、肝がん、大腸がん、食道がんの発症を増やしているのが分かります。
この表はがん以外の疾患との関連も示しています。
循環器では、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、脳卒中、の原因となっています。
呼吸器では慢性閉塞性肺疾患(COPDと呼ばれ、慢性気管支炎、肺気腫を含みます。)などを増やします。
この表はアルコールと飲酒が相乗効果で両者とも摂取量が多いと発症が飛躍的に増えることを示しています。
酒が進むとたばこの本数は増えますが、それが危険であることが分かります。
口腔がんと咽頭がんもたばこの摂取量に連動して発症が増えています。
以上より、タバコが健康の阻害をしていることは明らかですが、問題は喫煙者のほぼすべてはニコチン依存症であることです。
非喫煙者はドーパミンなどのやる気・集中力に関するホルモンやセロトニンなどのリラックスホルモンがほぼ一定に体内にありますが、たばこを吸っている方は吸わないと十分に分泌されないという現象が起こります。
したがってたばこを吸ってしばらく経って血中濃度が減少すると活力や集中力が低下し、同時にリラックスもできにくくなります。これが禁断症状と呼ばれるものです。
そのタイミングで煙草を吸うとホルモンが分泌され満足感が得られるのでたばこは美味しいということになり、たばこの魅力から離れがたくなるのです。
しかし、禁煙してしまえばホルモンの分泌は通常に戻りますので特に不自由は感じなくなります。禁煙をした方のほとんどが喫煙しなくなるのは必要がなくなるからです。
昨今アイコスやグローなどの加熱式たばこが流行しています。たばこから変更した場合当初は物足りなさを覚えますが、数週間で慣れてきます。
タールに含まれる有害物質がこの表のように大分減ります。
がん、動脈硬化、肺疾患の発症はこれにより減少します。
医師によっては0にならなければ意味がないという方もいますが、直ちに禁煙できなければ加熱式たばこでリスクを減らすだけでも健康に寄与すると考えています。
なおかつ加熱式たばこにはもう一つ利点があります。
それは禁煙につながるということです。
たばこから切り替えたときに物足りなさを覚えるのは実はタールが少ないせいもあるのです。加熱式たばこでもニコチンはある程度摂取できます。習慣で喫煙しているとタールにも親和性ができてしまうのでタールが減ると物足りないのです。加熱式たばこでタールへの親和性が減れば禁煙もしやすいというわけです。
禁煙外来で喫煙に成功する方が増えていますが、禁煙外来はどんなものでしょう。
3か月で5回通院します。3割負担の保険で月に6000円ほどの負担です。
チャンピックスという薬を内服するのが中心です。この薬はニコチンと同じ作用を示してドーパミンの分泌を促します。3か月服用して治療が終わって服用をやめてももうすでに自前のドーパミンの分泌がある程度回復しているため禁煙を続けられます。ニコチンパッチはニコチンを人為的に入れてしまうので貼るのをやめるとまた吸いたくなってしまうことが多いため、禁煙外来ではほとんどの場合チャンピックスが用いられます。
禁煙は簡単ではありません。
しかし、上記のたばこの害を正しく認識し、一旦加熱式たばこに切替えて、禁煙外来に通院していただくのが最も成功率の高い禁煙法であると思います。
禁煙外来に10年以上携わってきての実感です。